貴方に酔ったまま、



「そっか、政宗は生まれ変わったら鳥になっちゃうのかぁ」
「Ah?なんだ突然」

寝転んで頬杖を付きながら訝しげに訊いてきた政宗に、「ちょっと、ね」と曖昧に笑って見せる。なんだそりゃ、と政宗は苦笑した。このやわらかい優しい感じのする笑い方が私は好きだ。いつもの自信に満ち溢れた顔も好きだけど、本当はこういう表情の方が見ていてほっとする。
でもだからこそ、不安になるのだ。この世はあまりにも理不尽に出来ているから、この優しくて暖かすぎる政宗はいつか消されてしまうような気がして。
それでもそんな不安を口にしたら、きっと政宗は私を安心させる為に笑いかけてくれる。それは駄目だと思った。そんな顔をさせては駄目だと。なのに口は勝手に回る。不安を誤魔化そうとして、逆に変なくらいに饒舌に。

「・・・・・だってあたし、生まれ変わる時は人に生まれたい・・・」

そういうと、政宗は少し驚いたように目を細めた後、私の大好きな笑い方で私に笑いかけた。優しい笑顔だった。やってしまった、と思った。この不安は政宗に伝わってしまっている。私の手の上にそっとかぶせられた大きな手がその証拠だった。優しくしてほしかった訳じゃない。思わずびくりと手の震える。それでも手に触れたままのぬくもりの優しさに泣きそうになった。だから駄目だというのに。

「・・・アンタがそういう話題をするなんて、珍しいな」
「そう?特に意識はしてなかったけど」

うそ。本当は意識して避けていた。それを政宗も知ってて。だからこんな風に言うんだろうね。
でもね、生まれ変わった後って、つまりは死んだ後ってことでしょう?それっていやだ。そんな話はしたくない。
だけど今はわざとこの話題をふった。何故かは分からない。ただ目が覚めて政宗の顔を見たら、言わなければいけない気がした。

「なんで人に生まれてぇんだ?」

当たり前といえば当たり前の質問。なのにそれすらもどこかこちら気を使っているような話し方だった。あたしは精一杯の普通の声で政宗に「何でだと思う?」と聞き返してみる。政宗は英語っぽい唸り声を上げて、頬杖をついて考えにふけり始めた。そんなに悩むことだったのかな。その様子が可笑しくて思わず忍び笑いをもらす。
馬鹿だなぁ。政宗は本当に馬鹿ね。
「うんとね、政宗を焼き鳥にするためかなー」
「shit!何すんだよ!」
政宗は頬杖をついていた手から顔をすべり落として、怒ったフリをして見せた。そのマヌケな姿に、どちらともなく顔を見合わせて笑った。

障子の隙間から差し込む光が明るすぎず暗すぎず、優しい。そう感じられるのもここに政宗がいるから。もしも政宗がいなくなったら、同じ部屋で温度で時間で明るさでもきっと全然違うように思えるはずだ。考えてその想像をしてみる。随分リアルに想像されてしまった。当たり前か。もうすぐ起こるだろう現実の話なんだから。

二人で可笑しくて笑っていたのに、その笑顔はいつの間にか二人とも苦笑になっていた。酷い茶番だった。それでも、それでも最後なのだ、これが。
「あはは、なんだか今日の私は酔ってるみたい・・・」
「・・・ああ、俺もだ」
そういってまた笑って、笑いあって、笑いながら泣いてしまった。政宗は気付かないフリをしてくれた。私はそれに甘えて泣いていないという事にした。そう、ちょっと酔ってるだけ。酔ったせいで変になっているだけなの。

「・・・・・」

口を開く。
言いたいことは沢山あった。
だけど何一つ言えなかった。先の無い言葉は彼を傷つける。だから、もう会えないね、なんて真実も言わない。
また明日ねって眠りに付けば全部終わり。
・・・・明日にはこの城は落ちる。
織田の勢いは止められないほどに大きくなってしまった。出来ることがなにもないほどに。ここが陥落することはもはや未来というなの予定。希望などもはや断たれた後だ、万に一つも助かる道なんて無いだろう。あれは本当に「魔王」なのだ。
だからもう、本当は何一つ間に合わないことを知っている。そしてだからこそ私はこんな無駄な話をしている。

「・・・私、政宗も人に生まれ変わって欲しいな」

だってね、寂しいじゃない。あたしが人として平和な世界に生まれ変われたのに、その時に隣に政宗がいなかったら。
だから人に生まれてねって言ったら、お前も鳥に生まれりゃあいいじゃねぇか、と政宗は不思議そうな顔をした。確かに正論といえばそうなのだけど、やっぱりね。思うのよ。

「もし来世で会えたときには、好きだって告白するつもりだから」

私のささやかな夢を告げれば政宗は、バカだな、いま告白してくれりゃあ抱きしめられたのによ、と何処か寂しそうに、だけどやはり優しくて暖かくてほっとする私の大好きな笑顔を浮かべていた。私は目を閉じて、そうね、馬鹿よね、とだけ言った。



来世でもきっと、




(政宗、まさむねぇっ!!)(来るんじゃねぇ、・・・、早く・・逃、げ、・・・)(嫌だ、いくな、いかないでまさむね・・・っ)(早く逃げろ、・・・!!)(嫌だ、嫌だ!一緒に死ぬから!一緒にまた来世で、・・・っ)

(伝令、走れ!―――独眼竜伊達政宗、闘死!)(伊達軍敗走!織田軍の勝利、勝利ぃ!!)






来世でもきっと、貴方が好きだとほざくのです、私は。

inserted by FC2 system