いきなりの惚気話で悪いが、俺にはすっごく可愛くて大切な彼女がいる。

一目惚れだった。クラス替えしたときに初めて見て、好きだと思った。いや、それだけじゃなくて話しているうちにちゃんと好きになっていったんだけど・・・って今はそんな話をしてる場合じゃないんだっけ。
とにかくまあ、俺はその彼女が好きなわけです。
付き合いだしたのは一ヶ月弱くらい前。告ったのは俺。奇跡的にそれが実って俺は彼女と付き合えてる。

・・・というのも、情けない事に、俺が彼女を好きと知っているやつらにバツゲームという形で背中を押されてしたような告白だった。
今時高校生になってすることでもないが、トランプでジジ抜きをしていて。で、俺がドベになっちゃって、そしたら憎たらしいあの男が「じゃあバツゲームは隣の席の人に告白って事で☆」とか言い出したわけ。隣が誰かも知ってて、俺がその人を好きだって知ったうえでの確信犯。それでそんなことを言い出すクソヤローだ。あの爽やかな笑顔を思い出しただけでイラつく。くそ、ババ抜きだったら絶対負けなかったのに。ジジ抜きとか、表情読んだりする楽しさがないんだよ。・・・・・・まぁ結果的に成功したんだから礼を言ってもいいくらいなんだけどね。

だからそう、青春を謳歌する男子高校生としては幸せの頂点にいたはずなんですよ。

「はぁ・・・」

なのに最近、俺は溜息ばかりついてる。
しあわせすぎるくらい、のはずなのに、素直に喜べないのはなんでなんだろう。
・・・理由は分かってる。

彼女がぜんぜん幸せそうじゃない。

告白した時も、ちょっと黙り込んでから、「うんいいよ」って、寂しそうに笑った。

いつも、そう。
俺が好きだって言えば言うほど彼女は哀しそうに笑うだけ。どれだけ近づこうとしても、どんどん離れていく。そんな気がする。なのに俺は近寄ることを止められない。だって理由が分からない。
なんて悪循環。なんで。なんでなんだろう。







ちゃん、その・・・俺様と付き合ってくれない?」

俺は緊張を押し隠して、もうどうにでもなれっていうくらい玉砕覚悟で告白をした。言ってからしまったと思った。この気持ちは一生言わないつもりだったのに。なんでこんなことになっているんだろう。
そもそもあんな、「負けたら勝ったやつのいう事を何でも聞く」みたいなゲームに参加しちゃったのが失敗なんだろうけど。
ていうかこんな告白絶対成功するはず無いよね、第一俺あんまりちゃんと喋れた例が無いし、あいつらに面白半分で嵌められただけだろ。なんで素直に従ってるんだよ俺は。

「えっと・・・あ、いやあの」

ごめん嘘、なんでもナイデス。なんていつもの調子でふざけて誤魔化してやろうとしたけれど、いやでもちょっとまて、ここで誤魔化したら一生どうにもならない気がする。もう二度と「付き合って」とか言えないし普通に話すのも気まずくないか?だよな、え、じゃあこれ八方塞ってヤツか、詰んだのか、俺終わったのか、玉砕か。覚悟はしていたけど実際そうなるのとはワケが違うだろうワケが!ああもうなんで俺告白なんか――――

「うん、いいよ」
「あ、やっぱり駄目ですよね・・・・」

ごちゃごちゃ色々と考えながらもう男泣きでもしてやろうかと思いながら、それでも口は達者に平気を装っていた。そうだよフラれるくらいどうってことないさ!ないんだっての!初めてだけど!

・・・ってあれ?

「え、ホントに?ホントにいいの?」
「うん」
「本当に俺様と付き合うの?え、いいの?」
「うん」

しつこい位というか疑わしくなるくらい聞きなおしたのに、ちゃんはそのたびにこくりと肯いた。俺はまだ信じられなくて口をパクパクした。情けない顔をしていた気がする。だって信じられなかったし。

「お、俺様の彼女になるってことだよ!?」

まだ聞くのか、っていうくらいの勢いでめちゃくちゃ望みを掛けながら聞いて。
そうしたらちゃんは、やっぱり肯いて、

「・・・うん」

俺はそこでやっと現実を信じれて。幸せを噛み締めながら、そのままもう一度ちゃんの顔を見た。きっと俺様は馬鹿みたいに笑っていただろう。ちゃんも笑っていたと思う。

正直そんな場合じゃなかったし、浮かれていて気が付かなかったけれど、今思い返せばその笑顔は、

どこかすこし、哀しそうだったような。







そして俺には今になってもその表情の意味がまったく分からないんだ。

「ああもう、なんで・・・」

なんで、気持ちって伝わらないんだろう。なんで人の心って見えないように出来てるんだろう。誰がこんな、左胸とか言う微妙なところに作ったの?真ん中に置けよ真ん中に。ていうか、本当に心って心臓にあるのか?脳じゃないの?・・・もう意味わかんないよ。

それでも俺はさ、ちょっとくらい分かってるつもりだったんだ、アンタのこと。


『ううん、なんでもないよっ』


あんたはいつも嘘をつくとき、語尾を上げて明るく振舞うんだって事を。



「なんでこうなるのかなぁ・・・」
俺はなんで、こんな難儀な子を好きになったんだか。
それでもまあ、諦める気なんかさらさら無いんだけどね。

ぼそりと呟いて、俺は教室のドアを勢いよくしめた。




も う も ど れ な い
(力ずくでも止めてやる、この悪循環を)





とりあえず佐助の情けない告白現場はチカベや伊達にこっそり目撃されているといいね
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